kanjuseitosyakaitojounetsu’s diary

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WPPは知っている、『ベインキャピタルはADKからwpp株式の含み益400億円を得ることができるため、TOBを表明した。』

ベインキャピタルが買収(TOB)をADKに対して行っている。

 

今回は、この背景を説明したい、二点に分かれる。

なぜ、ベインはADKを買収するのか。そして、ADK側はなぜ、賛成するのか。

まず、事実の確認だ。

 

 

japan.cnet.com

ビーシーピーイー マディソン ケイマン エルピー(BCPE Madison Cayman, L.P.)は10月2日、アサツー ディ・ケイADK)の発行済み普通株式および新株予約権TOB(株式公開買い付け)により取得すると発表した。ADK側は、TOBに賛同を表明している。 同社(公開買付者)は、Bain Capital Private Equity, L.P.および米ベインキャピタルによって保有・運営されているリミテッド・パートナーシップ。

 

対象者普通株式および新株予約権の全てを取得し、非公開化を目的にTOBを実施する。TOBが成立次第、上場廃止となる予定だ。買い付け期間は、10月3日から11月15日まで。買い付け価格は普通株式1株につき3660円で、4162万3579株の取得を予定している。

 

WPPグループが保有しているADK

 

2018年10月5日現在、株式会社アサツーDKADK)の筆頭株主WPPグループだ。25%を保有している。WPPグループというのは、世界の広告代理店グループで1位か2位という大規模なグループだ。(日本首位の電通は5位)

そして2位の株主は、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズというイギリスの資産運用会社だ。彼らは運用のプロだ。

彼らが安すぎると主張している。。

www.nikkei.com

アサツーディ・ケイ(ADK)の第2位株主の英運用会社、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは4日、米投資ファンドベインキャピタルによるADK買収に反対すると発表した。ベインが提示したTOB(株式公開買い付け)価格が著しく安いとしている。

筆頭株主と2位の株主が反対している。その理由は価格が安すぎるからだ。

 

 

 

価格が安い最大の理由

 

価格が安いといえる明確かつ最大の理由は、ADK保有するWPPグループの株式だ。

以下のサイトに詳細は書いてあるが、公表されている財務諸表を確認するとよく分かる。

  

www.stockclip.net

すると、建物や土地をそれほど抱えていませんが、投資有価証券を953.13億円ほど抱えています。

 詳細を書いていないが、有価証券の評価による含み益が(WPP分、そのた有価証券評価分)450億円ある。これがベインが狙っているものだ。これの評価である。

上記サイト(note)では、このTOBの背景まで踏み込んでいないため、次節からはその点を解説しよう。

 

 TOBの背景 ベインキャピタルの思惑

 

ベインキャピタルの買収提案理由はなんだろうか。もちろん、先ほど述べたようなADKの持つWPPの株式の含み益450億円が狙いだ。それが最大の狙いであるが、それでは、建前がないのだ。建前が大切である。ベインキャピタルの建前は何か。それは企業の改革をおこない、事業を成長フェーズにのせるということだ。

これは、具体的にはどういうことだろうか。

ADKが標榜するコンシュマー・アクティべーションという概念を実施するためにベインキャピタルが貢献できるという考えである。

コンシュマー・アクティべーションとは、消費者行動促進と日本語で訳せるだろう。

これはどういうことかというと、広告によって、面白い企画を行うのではなく、広告の結果、消費者が購買行動を起こしたりするという、行動を促進するところまでを目標とした企画を行うということだ。ADKは、広告代理店というビジネスモデルからマーケティングソリューションを提供するという会社になるということだ。

ベインキャピタルはここに、建前を求めている。ベインキャピタルには、様々な企業(音響メーカーや広告調査会社マクロミル、大江戸温泉というレジャー施設)の企業経営の経験がある。そのため、マーケティングに関する知識、経験がありますよということだ、これが建前だ。

 

TOBを受ける側 ADK経営陣の思惑

ADKに利益はあるのか。これが主な点だ。ADK側の発表によると、20年にわたってWPPグループと提携してきたがシナジー効果がないということが建前の理由だ。本音レベルでは、経営上大きな障害があるということだ。WPPは、ADKの株式の25%を保有している。そのため、経営の重要な決定においてはWPPの意見が尊重される。WPPグループは日本で広告会社として業務を行っているため、それらの会社は競合であり、それらの外資系広告会社にダメージを与えることはできない。外資系広告会社の主なクライアントは、外資系メーカー(ナイキとかをイメージしてもらいたい)である。WPPグループ本体としては、このクライアントを外資系広告会社に担当してもらいたい。そちらのほうが利益が出るからだ。つまり、ADKは、外資系クライアントを積極的に攻めることができないのだ。これが大きな足かせとなる。

また、ADKは、長期的な投資や、提携といった重要な経営戦略について25%しかない株主であるWPPグループに対して、お伺いを立てなければならない現状であった。

このため、システム投資や子会社の買収において、スピードが足りないのである。電通博報堂は、テレビやウェブに関するシステム開発を次々に行い、ベンチャー企業を次々に買収する。ADKは、この流れに完全に遅れてしまった。

ここまでが建前だ。

ADKの本音

ADKは以上の建前の課題を解決したかった。しかし、ここまでの建前でわかるように、「ベインキャピタルを選ぶ理由」が存在しない。他の一般企業、特に三菱商事(事業で提携している)に買収してもらうことがベストだ。しかし、ADKの経営陣はベインキャピタルを選んだ。その理由は、二つあると考えられる。一つは、ベインキャピタルのリストラ能力の高さである。もう一つは、完全な推測であるが、経営陣に対して、退陣を求めないという約束手形を取り付けた気がしてならない。ベインキャピタルは、上場企業でないため、情報を公開する必要がないからだ。繰り返すが、これはまったくの推測だ。

ベインのリストラ能力の高さ

 ベインのリストラ能力の高さを記事から引用しよう。

gendai.ismedia.jp

 

さらに、ベインキャピタルから派遣された経営陣や、新たに採用されて派遣されてきた管理職の面々にも、クライアント企業からアウトソースされるコールセンター業務が中心のベルシステム24グループの業務に精通し、収益を短期間に劇的に改善するノウハウを持つ専門家は一人もいないという。

 

 ベインキャピタルに専門家はいないが、巨額の買収を行うのだ。これは、リストラを行うから成立する話だ。日本の40-60歳のサラリーマンはスキルがないため、給料をもらいすぎであり、また、そもそも多くの人間を企業は抱えすぎている。そのため、くびにするだけで、短期的には業績は回復する。そして、次の好景気がきたときに、人手がたりないために、大きな業績を上げることができないのだ。この日本の構造について熟知しているベインキャピタルは、短期的な業績をあげる。まさに、日本の社会構造を熟知したハゲタカである。企業を経営する力なら、グロービスキャピタルのほうがある。もちろん、グロービスが得意なフェーズではない。さらに、日本では、ターンアラウンド(事業再生)が得意なファームはいくつもある。それらとADKが組まないことが、筆者に当然疑問であるし、多くの日本人にも当然だろう。それは、株式市場に上場している会社を預かる経営陣として当然果たす、説明責任だろう。

 

結論 

以上により、ベインキャピタルは、非常に楽をして、大金を得ることになる。なんといっても、1500億円準備するだけで、400億円もらえるのだ。彼らは、1500億円銀行にあるから、ただで、400億円もらえるのだ。(他にあわせると900億円の金融資産がもらえる。)こんな甘い仕事はない。なぜなら、ベインキャピタルには、広告会社を経営するスキルはない。なぜなら、ベルシステムという経営したことのない、専門的な会社を買収するようなファンドだからだ。それに対して応じてしまうADKの経営陣は、厳しく、質問攻めにされなくてはならない。それが、上場企業の経営陣の務めである。ベインはぼろもうけをしている。せめてもっとリスクをとれというのが、多くの人の考えであり、正義論に基づく議論だろう。

 

現状

10/5現在の状況をまとめる。TOBがどうなるかはわからない。しかし、結論の説で見たように、この価格は安すぎる。筆頭株主WPPグループはTOBに反対し、第二位のイギリスの投資運用会社も反対している。

 

アサツーTOBに応じず 筆頭株主の広告会社 英紙報道 - 産経ニュース

投資ファンドベインキャピタルが3日に始めた日本の広告大手アサツーディ・ケイに対する株式公開買い付け(TOB)に、アサツー筆頭株主である英広告会社WPPグループがTOBに応じるつもりはないことが分かった。3日付の英紙フィナンシャル・タイムズが関係者の話として報じた。

 WPPは、ベインの提案した買収価格がアサツーの株価を「ひどく過小評価している」と判断しているという。WPPが価格引き上げを求める可能性もある。

 業界からすれば、とてつもなく安い価格だ。

ADK株のTOB、第2位株主の英運用会社も応じず 「価格安すぎる」 :日本経済新聞

アサツーディ・ケイ(ADK)の第2位株主の英運用会社、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは4日、米投資ファンドベインキャピタルによるADK買収に反対すると発表した。ベインが提示したTOB(株式公開買い付け)価格が著しく安いとしている。筆頭株主の英広告大手WPPもTOBに反発しており、成立に不透明感が出てきた。

 以上、広告業界や、マーケティング、企画に関する人が抑えておくべき記事でした。